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聖スコラスチカおとめ   St. Scholastica V.         記念日 2月10日


 聖スコラスチカ童貞は、修道会創立者として名高い聖ベネディクトの妹であって、5世紀の末ローマ市に生まれた。母は彼女の生後まだ一年も経たぬ内にこの世を去ったから、彼女は兄と共に父の手一つで育てられ、幼い時から主を畏れ敬う心を養われつつ生い立った。そして兄のベネディクトが世間の喧噪を去って深山の静寂裏に隠れ、厳格な修道生活を始めてからも、彼女だけはなお父の膝下に留まっていたのである。

 スコラスチカは天成の美貌にかてて加えて、家も甚だ富んでいたから、年頃になると数多のローマ青年貴族達から降るような結婚の申し込みを受けたが、彼女は少しも心を動かされず、それらの縁談を片っ端から断った。というのは、彼女も兄と同じく一生を天主に献げたいと望んでいたからである。で、もともと信心深い父は、老後の杖とも頼むべき唯一人の娘を手放すのは、いかにも忍びがたい苦痛であったが、遂に彼女の熱心にめでて修道生活を許すに至った。

 スコラスチカは自分に譲られた財産を貧民に施し、兄の修道院のあるカッシーノ山のほとりに、ささやかな庵を結び、兄の指導の下に克己滅我の苦行と不断の祈りの生活を始めた。その後次第に外の信心深い女性がスコラスチカの徳を慕って集まって来、共に修道に励むようになると、聖ベネディクトは山上のわが修道院でも既にそうしたように妹達の修道会にも一定の戒律を授け与える事にした。聖スコラスチカはその会の最初の総長として、言葉や行いを以て姉妹達に徳の道を教えたが、その愛の柔しさ、その祈りに於ける熱心さ、そのあらゆる徳の麗しさに、姉妹達はいつも感動のあまり「あの方は本当は天使で、ただ私共に善徳の生活の鑑を示す為に、仮に人間の姿を現していらっしゃるのではありますまいか!」と言っていたという。

 スコラスチカは年に一度、聖ベネディクトと会見して、姉妹達の指導に関して注意を受けたり、兄の有益な談話を聞いて心の糧としたりするのを定めとしていた。その会合の場所は両修道院の中程にある一件の田舎家であった。
 543年の2月7日-ちょうど聖なる兄妹が一年一度の会見をしようというその日の事である。スコラスチカは聖霊の特別な御照らしを受けて、間もなく自分がこの世を去る事を知った。しかしそれは彼女に喜びをこそもたらせ、少しも心に暗い影を投げかけるものではなかった。彼女は二三人の姉妹を連れて、兄と逢うはずの田舎家へと野道を歩いて行った。空は紺碧に晴れ渡り、南欧の春の日が麗らかに射して、野にも牧場にもさまざまの花が今を盛りと咲き乱れていた。
 山上の修道院からはやはり二三人の兄弟を同伴して、聖ベネディクトが下りてきた、スコラスチカは最早この世では兄と再び逢う機会もないことをよく知っていた。しかしそういう地上の悲しみなどは一切なげうって、ただ過ぎる事のない天国の幸福について兄と語り合ったのである。
 時のたつのも忘れて天上の会話に耽る間に、いつか夕日は下界を血のような光に染めて西山の陰に沈んだ。名残は尽きぬもののベネディクトは暗くならぬ内に山上の修道院に帰ろうと立ち上がった。けれどもスコラスチカはいつになくそれを引き留めて、もう少し天国の話を聞かせてくれとしきりに頼むのであった。
 ベネディクトは言った
「でも承知の通り会の規則は厳しい。もう大分遅くなったから、お互いに急いで修道院に帰らなければ・・・」
 スコラスチカは別離の悲しみに耐えぬ者のように面を伏せて祈りを献げた。するとどうしたというのだろう、今まであれほど晴れ渡っていた空が急にかき曇って来て、激しい暴風雨が襲来した。家を動かす怒濤のような風の音の恐ろしさ、窓に打ち付ける滝のような雨の勢いの凄まじさ!まさに家を出ようとしていたベネディクトは呆気にとられて立ちすくんだ。こんな有様では到底帰れそうにもないと考えながら・・。
 それと見たスコラスチカは微笑して「ね、御覧なさい、兄様、あなたがどうしても私のお願いを聞いて下さらないので、私は今天主様にお祈りしましたの。そうしたら天主様は早速それを聞き届けて下さいました!」と言った。
 この奇跡にさすがのベネディクトも、天主の思し召しを悟って、その世はそこに止まる事にし、兄妹は聖人の幸福、天上の歓喜など聖い話題について一夜を楽しく語り明かしたのである。

 この会見の三日後、山上の修院の小房で祈りに耽っていたベネディクトがふと窓の外を見ると、妹の修院から真白に輝く一羽の鳩が、真っ直ぐに天を目指して飛んでいくのが見えた。聖霊の御光を受けた彼は、すぐにその鳩が妹の霊魂で、今天国に帰る所だと明らかに悟った。実際その通り、スコラスチカはその時別に何の病気もせず、眠るが如く安らかな往生を遂げたのであった。

 それから僅か四十日たって、兄のベネディクトも妹の後を追って天国の福楽に入った。

教訓

我等もこの世の快楽や富みに目をくれず、地上の何物も比較にならぬ永遠の生命の貴さについてしばしば黙想しよう。また信仰の光に照らして、度々「永遠」という事に思いを潜め、我等の不滅な霊魂の幸福を失わぬように気をつけよう。